「実務補習は忙しいっていうけど実際どうなの?」
「初日までにどんな準備をするのが良いの?」
先日、初めて中小企業診断士の実務補習(5日間コース)を受けてきましたが、本当に濃密であっという間の約2週間でした!
今回の記事では、実務補習の実情や事前準備の仕方など、実務補習の全容を余すことなく書いていこうと思います。
中小企業診断士の実務補習とは?
中小企業診断士第2次試験合格後3年以内に「実務補習を受講した日数」または「実務に従事した日数」の合計が15日以上あることにより中小企業診断士としての登録の申請を行うことができます。
中小企業診断士になるためには、二次試験合格後に『実務補習』または『実務従事』に15日間従事する必要があります。
『実務補習』は、中小企業診断協会が年に4回(2月、7月、8月、9月)実施していますので、5日間コースまたは15日間コースを申し込みます。
なお、15日間コースは2月のみの実施となっています。
『実務従事』は、知り合いが経営する会社に協力を依頼するか、民間企業が提供している実務従事サービスを利用することによって要件を満たすことになります。
『実務補習』の5日間コース×3回というのが最も一般的ですが、『実務補習』の5日間コース×2回と知り合いの会社に頼んで『実務従事』5日間×1回の合計15日間という方も珍しくないです。
メンバー構成
今回の実務補習のメンバーは指導員の先生と合計6人のメンバーで臨みました。
年齢・性別 | 実務補習の経験回数 | 担当したパート | |
Nさん | 40代男性 | 1回目 | 経営管理(班長) |
Iさん | 40代男性 | 3回目 | 財務管理 |
Oさん | 30代男性 | 1回目 | 労務 |
Kさん | 40代女性 | 2回目 | 販売 |
しゅん | 30代男性 | 1回目 | マーケティング |
Yさん | 30代男性 | 1回目 | マーチャンダイジング |
メンバーの年齢構成は30代と40代でまとまっていましたが、本業の業種はみんなバラバラで、銀行員や商社マン、コンサルタント等々、普段関わらないような人たちばかりでした。
実務補習の良いところは、このように普段関われない人たちの考え方について触れることができるところでもあります。
担当指導員だった先生はプロのコンサルタント、いわゆる”プロコン”であり、10以上の顧問先をもっているバリバリの中小企業診断士でした。
指導員の先生からは、中小企業診断士としてのいろはを学べたことは非常に大きな経験になりました。
実務補習のスケジュール
僕が受講した5日間コースは、以下のようなスケジュールで行いました。
1日目 | ・担当決め ・企業訪問、ヒアリング |
10:00~16:30 |
2日目 | ・SWOT分析 ・経営課題抽出 ・担当別役割確認 |
9:00~17:00 |
3日目 | ・各担当報告内容確認 ・全体最適調整 |
9:00~17:00 |
4日目 | ・診断報告書最終確認 ・プレゼン打ち合わせ ・報告書製本 |
9:00~17:00 |
最終日 | ・プレゼン最終確認 ・診断報告会 |
10:00~17:00 |
大まかな流れとしては1日目に企業へヒアリングを実施し、2・3・4日目で報告書の作成、最終日に企業へ診断報告会を行う流れです。
この中で1日目と最終日の企業訪問日は平日ですので、有給休暇を使って本業を休みました。
それではもう少し具体的に1日の流れを掘り下げていきます。
1日目までの事前準備
指導員の先生から診断先企業についてのお知らせメールが1週間くらい前にありました。
そこからは事前準備として、診断先企業のHPをくまなく見たり、社長が過去に受けたインタビュー記事などを探して、企業や社長についての理解を深めておきます。
診断先企業の調査と同等に重要なのが、診断先企業の業界について調べることです。
そこでおすすめなのは業種別審査事典。
業種別審査辞典では、業界の概要や業界の平均的な数値も記載されています。
診断先企業が業界平均値とかけ離れている項目があれば改善提案できる可能性もあります。
業種別審査辞典は高いので購入する必要はありません。近くの少し大きめな図書館に置いてあります。
カーリルを使えば、全国の図書館からリアルタイムの貸出状況を検索できますよ。
この時点で1日目のヒアリングで何を聞こうかな?とざっくりと頭に浮かんでいることが理想です。
1日目
1日目から最終日までの大まかな流れは先ほどの表の通りですが、実際の進め方は指導員の先生によって大きく違います。
今回の先生は時間を大事にしておられる先生で、予定よりも遅くなって解散したことは一度もありませんでした。
事前の情報では、『終わったのが夜の21時だった』等、夜遅くまで作業をするという話を聞いていたので恐れていましたがそんなことは一切ありませんでした。
1日目は10時に指定された施設でまずは各メンバーとの顔合わせと、各パートの担当決めでした。
最も重要なパートは経営管理で班長も兼ねることになります。
大体は実務補習経験者が担当するものなのですが、実務補習が初めてのNさんが立候補してくれました。
次は(今回は各パートの中で精神的に一番ハードだった)財務管理ですが、銀行員のIさんが立候補しました。
今回の実務補習を通して強く感じたのは、財務管理は金融機関出身の人が担当すべきだということです。
Iさんの提案内容は、金融機関を経てない僕からは絶対に出せないような素晴らしい内容でしたので。
その他のパートも大体各々がやりたいことを担当することになりました。
経営管理、財務管理、労務はどの診断先企業でもマストのパートのようですが、診断先企業によっては販売とマーケティングが1パートにまとめられていたりすることもあるそうです。
担当するパートが決まったら、午後からのヒアリングで具体的に何を聞くかを話し合います。
指導員の先生のアドバイスもありながら、各パート毎に5個程度のヒアリング項目を決めました。
今後の診断書作成において、1日目のヒアリングは非常に重要です。
診断先企業が指導員の先生からお知らせメールがあってからの事前準備の段階で、ヒアリング項目について考えておくことがオススメです。
大体、1日目のヒアリング後に追加で聞きたいことが出てきます。その場合は、後日追加質問する機会があります。
お昼休みの時間を利用して診断先企業へ移動し、ヒアリングに入ります。
今回は6パートありますので、各パート30分で合計3時間のヒアリング時間があらかじめ予定されていました。
ヒアリング前は『3時間も聞くことあるかな?途中誰も聞くことがなくなってしまったらどうしよう?』という不安がありましたが、杞憂に終わりました。
現在の会社の状態や今後どうなっていきたいか、等を聞いているとあっという間に3時間が過ぎてしまいました。
後で紹介する本の中に書いてありますが、ヒアリングで大事なのは、”現状”と”理想”を知ることです。将来どうなりたいか、でも今何が足りないのかと経営者から聞き出すことができたらヒアリングは成功といえます。
2日目
2日目は昨日のヒアリング内容の認識合わせと明日から始まる報告書作成のために方向性を定める重要な日です。
まずは、各パート毎に昨日のヒアリング内容を発言し、みんなからのフィードバックをもらいます。
メンバー間でヒアリング内容の整合性が取れたら、次はSWOT分析をおこないます。
複数経験者の方が昨日のヒアリング時にSWOT分析を簡単に進めてくれていたので非常にスムーズに進みました。
今回の場合は具体例を出すと、
S:ECサイト、SNSが立ち上がっている、専任の担当者がいる
W:社長への業務集中(事務作業等の本業以外)
O:クラウドファンディングの流行
T:中国の人件費が高くなっている
等が挙げられました。
これらの強み・弱みを把握した上で具体的な改善策を列挙していき、各パート毎に何を書くかが決まったところで2日目は終了です。
報告書のページ数は各パート毎に15ページ前後を目標とします。図や表を張り付けることもあるので多過ぎるページ数ではありません。
報告書作成期間
実務補習で最も大変とされるのがこの約1週間の報告書作成期間です。
この1週間で約15ページの報告書を作成するのですが、実務補習を受けてる人ほぼ全員が本業との掛け持ちとなります。
僕の場合も深夜2時ごろまで報告書を作成する日がありました。
もし、この報告書作成期間に有給が取れるのなら取ることをおすすめしますが、ただでさえ1日目と5日目に有給をとることになっているのでかなり厳しいでしょう。
報告書作成期間で最も重要なことは、各メンバー間の方向性があっているかを確認しながら進めることです。
そのため、僕らのチームは月曜日と水曜日の夜にお互いの進捗状況や方向性確認のためにzoomを使って会議をしました。
zoomでの会議の時に実務補習の複数経験者から報告書作成に関するアドバイスも貰えたので非常に有益な時間となりました。
次に報告書のフォーマットについて紹介します。
今回の報告書は以下の3つの構成で書きました。
現状
↓
課題
↓
提言
まずは、現在の状況を整理して、そこからあぶり出される課題を抽出。
その後、具体的な改善策を提言するという流れになります。
この提言をするときに指導員の先生から口を酸っぱくして言われたのは、
『実現可能性のある具体策を提言しなさい』
ということでした。
つまり、『理想論を書くのではなく、中小企業の限られたリソースの中で実行可能性の高いものを提言しないと君達の報告書は一切読まれないよ』ということでした。
試験勉強で得られた知識をどうしても披露したいと考えがちではありますが、今後もこの教えは常に頭の片隅に置いておきたいと思います。
3日目
3日目は各パートで作成した報告書の読み合わせをして、2日目に擦り合わせた方向性に全体として間違った方向にいってないかや、文章をブラッシュアップをしていきます。
ここで各パートで書いていることがバラバラだと地獄です。
報告書としての方向性がバラバラだとここから書き直しになるので、3日目の夜は寝る暇がなくなります。
そうならないために、報告書作成期間に各パートの方向性を確認しながら進めておくのです。
4日目
まずは3日目で指摘が入った個所の最終確認と各パート15ページの報告書を1冊にマージしていく作業と表記方の統一作業です。
表記方の統一とは、例えば、見出しの文字サイズは○○pt、本文は○○ptにするといった細かいことを合わせていきます。
表記方は4日目に通常はやりますが、2日目の最後の時点であらかじめフォーマットがあると4日目の作業が非常に楽になります。
今回の場合は複数回経験者が前回の報告書フォーマットを共有してくれましたので、4日目は非常に早く解散することができました。
最終日のプレゼンに力を入れている指導員の先生だと、ここからパワーポイントでスライド作成やプレゼンの練習のため解散が夜9時頃になることもあるそう。
5日目
5日目は約2週間の成果を診断先企業にプレゼンする日です。
午前中は指定されたホールに集まって、各パート毎に簡単にプレゼンの練習をおこないました。
このプレゼンの練習時に指導員の先生から強く言われたことが一つあります。
『報告書は極力読むな。きちんと自分の言葉で説明しなさい。』
視線をずっと報告書のほうに落として内容を読み上げるだけでは、「こいつは何も分かってないな。」と思われてしまうということです。
このことは普段の仕事でも大事だと思います。書かれている内容を読み上げられるとまず内容が頭に入ってきませんし、『これ資料に書いてあるじゃん』と思いますもんね。
プレゼン練習が終わり、昼食を食べた後に診断先企業に移動していよいよプレゼンです。
正直なところ、昼食を食べてる際にご飯が喉を通らないほど緊張していましたが、自分が書いた約15ページの内容を自分の言葉で社長の目を見ながらプレゼンできました。
社長も僕の話を聞いてる際に、頷きながら聞いてくれていましたので一定の理解はしていただけたと思っています。
全パートのプレゼン後には、診断先企業の社長さんからいくつか質問をいただいて終了となります。今回は社長さんから「よくそんな所まで調べてくれたね、ありがとう。今後の参考にします。」と言っていただきその言葉で約2週間の苦労が報われた気がしました。
実務補習で求められる3つのスキル
実務補習を経験したことで様々なスキルが必要だと感じましたが、特に重要だと感じたスキルを3つ紹介します。
- スケジュール調整力
- ヒアリング力
- 社長の心を想像する力
まず一つ目がスケジュール調整力です。
先ほどもお伝えしましたが、実務補習は非常にハードなスケジュールです。
本業が終わった後に時間を見つけて、約15ページの報告書を1週間で書き上げる必要があります。
つまり、本業の残業時間が長引くと報告書を書く時間がありません。
実務補習のスケジュールはあらかじめ分かっていますので、報告書作成期間の1週間は極力仕事をいれないようにしましょう。
もし、可能なら報告書作成期間に有給休暇を取れるとベストです。
2つ目の重要なスキルはヒアリング力です。
1日目の社長へのヒアリングができ次第で報告書の完成度合いが左右されるといっても過言ではありません。
ヒアリングで聞くべきは大きく分けて、”現状”と”理想”です。
現状と理想のギャップを報告書に書いていくことになります。
ヒアリングについては後程紹介する本にも記載がありますので是非参考にしてみてください。
そして最後は社長の心を想像する力です。
これは中小企業診断士として最も大切な能力の一つではないかとこの実務補習を通じて感じました。
少し話は逸れますが、野村総研と英オックスフォード大の共同研究で中小企業診断士はAIによる代替可能性は約0.2%という研究結果が出ています。
その研究では行政書士や税理士が90%以上といわれている研究結果です。
AIは人の気持ちを汲み取ることが苦手といわれていますので、この研究結果と中小企業診断士に必要な社長の心を想像する力はリンクしている気がしています。
話を戻しますが、極論をいってしまうと、実務補習で我々が提案できる内容の大体は社長さんが既に分かり切っていることです。
そのような中で「君の提案をやってみよう」と思われるには、提案内容にプラスアルファが必要だと思うんです。
社長さんは従業員の雇用を守るために日々必死に会社のことを考えています。そのような背景を慮りながら、報告書の文章や報告会での言葉一つ一つに気をつけるべきだと思います。
実務補習におすすめの本
今回の実務補習が初めての”コンサル”経験になる人も多いと思います。
僕自身も”コンサル”経験が初めてでしたので、巷で売れているコンサルタントの本を何冊か読みましたが、その中でコンサル初心者に向けておすすめなのが以下の2冊です。
中小企業診断士としてのスタートとしてはふさわしい2冊かと思いますので是非読んでみてください。
実は実務補習で僕を含めて6人中4人が上記の本を持っていることに驚きでした!!
15日間コースはおすすめできる?
実務補習は5日間コースと15日間コースの2種類あります。
15日間コースを受講すれば、最短で中小企業診断士への要件を満たすことができます。
しかし、どうしてもすぐに中小企業診断士に登録しないといけない強い理由がない限り15日間コースは避けましょう。
理由は5日間コースで十分にハードだからです。
15日間コースの場合、1回目の報告日前頃に2回目の診断企業の概要が送られてきます。
5日間コースを受講して感じたのは報告日頃にはもうヘトヘトだということ。
疲れ切った中で次の企業のことを下調べする時間的・精神的余裕はありません。
15日間コースだと約1か月半で最低6日の有給休暇を取らなければならないこともハードルが高いですよね。
余裕をもって5日間コースを3回受けるプランのほうが良いと思います。
まとめ
実務補習は中小企業診断士になるために必要なポイントを稼ぐために参加が必要です。
参加する場合は本業を少しセーブするくらいの調整をおこなわないと報告書作成期間の1週間がかなりきつくなります。
実務補習を成功させるためには、1日目のヒアリングが非常に重要になってきます。sのためには、先ほど紹介した本を参考にヒアリングを成功させましょう。
実務補習には15日間コースと5日間コースの2種類ありますが、特別な理由がない限りは5日間コースを受けるほうが精神的にはゆとりを持つことができます。
最後になりますが、実務補習は本業との兼ね合いもあって非常に大変な2週間になりますが、普段の仕事では経験することができない体験をすることができますのでしっかりと準備をして臨むことをおすすめします。
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